誰も明らかにしなかった事柄
誰がいつ、こんな言い方を始めたのか知らないが、「メンバー」とは、雀荘で働く人で、卓に入ることのある従業員である。
そのメンバーのための教科書、良きメンバーになるためのノウハウを明らかにしたのが本書だ。
現在の日本において、最も簡単に、麻雀を打ち続けることで一定の収入を得ることのできる職業がメンバーであり、非常に数多くのメンバーが存在し、それよりももっと多くの元メンバーが存在するはずなのだが、そのメンバーのための指南本は今まで無かった。
体系的に(数ページではあるが)まとめられている文書は、以前、存在したが、一般の目に触れることはなかった。
その点からだけしても、本書の貴重さ/希少性は明らかである。
しかし本書の特長は、メンバー業務の手順を通り一遍に説明したことでなく、その基本的な姿勢や心構えに重きを置いていることであろう。誰も真面目な顔で「こうあるべき」なんて言葉にしたことはなかったのだ。
何となく理解していることではあったが、誰もそれを声高に口にすることはなかった。
従業員教育(=メンバー育成)の重要性は、雀荘経営者にとっては周知の事実であり課題の一つでもあるのだが、その手法が一般化できるとは思われていなかった。
ところが、この書籍(実際には、この書籍の元となった同名のウェブサイト)は、メンバーのあるべき姿を明確にするとともに、それが経営者にとっても、客にとっても、メンバー自身にとっても幸福をもたらす道であることを明言した。わかりやすい例で、充分な説得性を持って語られるノウハウの一つ一つは、メンバー職に従事するあらゆる人々にとっての珠玉の言葉である。
著者は現役のメンバーであり、自身の体験を元に多くの具体例にそって、様々な場面でのメンバーの処し方を述べている。
各トピックスの終わりには、ウェブ上で同記事がアップされた際に寄せられた読者からのコメントや返答が掲載されており、とてもわかりやすい。
自分の意見に疑問を感じている点についても正直なスタンスで考えが披露されているので、読んでいてとても好感が持てる。しかし、「マニュアル」としては、もっと断言してくれても良いのにな、と思える箇所もないではない。
と、私が思うのも、私自身もメンバー経験があり、そして実の所、複数のクラブで従業員教育に携わったことがあるからだろう。
私は一人でも多くのメンバーや経営者にこの本を読んでほしいと願っているが、フリー雀荘で囲んだ経験のないネット雀士の方にも、ぜひとも薦めたい。充分面白い内容だろうと思える。麻雀にはこんな世界もあるのだ、ということを知っておいて損になることはないはずだ。
コンテンツ
雀荘メンバーになる前に
メンバーやフリー雀荘についての基本的な事柄が最初に説明されている。想定されている読み手は、これからメンバーになろうと考えている人向け。
私的には、(クラブのシステムや経営者の考えにもよるが)もっともっとたいへんな職業であることを力説すべきではないかと思う。
まぁ、導入部なので、そういうわけにもいかなかったのかもしれない。
でも、実の所、こんなにオイシイ職業もない、って思ってます(笑)。クラブのシステムや経営者の考えにもよるが、...。
雀荘メンバーの心得
代走時の注意点と、メンバー制約について重点的に述べられている。
心得そのものは、以降の章でも繰り返し登場するのだが、この本の全体で言っていることは「客に不快な思いをさせてはいけない」の一語に尽きる。
本走については個人的にはチト意見が違うのだけれど、たぶん、この本の言っている通りに実践するのが間違いは少ないだろうと思える(私と著者の考えの相違点は、この事以外にもいくつかあって、いずれ[放言]で明らかにしたい。ホントか?)。
高意識のプロメンバーになろう
プロフェッショナルとして志しを高く持ったメンバーを「プロメンバー」と称しており、この章ではメンバーが日々遭遇する細かな状況でのノウハウが展開されている。
内容が多岐に渡っているので、部外者は戸惑いを覚えるかもしれない。しかし、どれももっともな事だ。
ネット雀士、家庭麻雀雀士の皆様には「目からウロコ」の事柄が満載であることを保証します。
なかでも「卓組み」についての問題は、読んでいて楽しい(失礼!)。友人の一人は「これは、麻雀クイズの新しい形式だ」とまで言った(笑)。
勝ち組雀荘に学ぶ生き残りのノウハウ
他の客商売ほどには努力していない一般の麻雀荘には耳の痛い内容の章だ。
この章だけは、メンバーというよりも(メンバーも含めた)経営陣への提言となっており、一人のメンバーが気軽に実践できる事柄ではない。
しかし、1メンバーと言えども経営者的な視点を持っていること(=店全体の利益を考えること)の重要性を著者は述べているので、絶対に必要な章でもある。
本書が出版された意義
本書の内容は同名ウェブサイトからの抜粋である。
なので、内容を知るためにはわざわざ本書を購入する必要はないし、こうして出版される意味もなかった。
著者(=ウェブサイトの管理人)である taroo氏は、ウェブを利用していない多くの現役のメンバーの方々に読んで貰いたいという思いで、出版したのだと言う。私自身も複数のクラブに届け、経営者やメンバーに読ませたが、これが書籍でなければそうしたことはできなかった。
ところが今、こうして本書を手に取ってみると、PCのモニタで読んだ時とは違う印象を私は感じている。
ウェブ上では独立した一つ一つのページだったものが、一冊になることにより、読み物としての認識が高まってくる。
ただ「知る」だけなら一回で充分だけれども、「読む」となると何度も目を通したくなるものだ。
あらためて「書籍」の価値に気付いた。
この書籍で一番、気に入らなかった点を最後に一つ。
それは、牌の画像が汚いことだ。
あとがきを読んだ方なら、この画像を作成したのが誰か判るかもしれない。
ウェブと書籍はそもそも解像度の考えが違うのだから、もっと高解像度のデータを用意すべきでした(別に怒っているわけではないよ> tarooさん)。