携帯テレビ、携帯マット、ケイタイにも色々あるけど、多分、今最もポピュラーな携帯電話のこと。
うるせぇんだよナ、まったくー。
囲んでる時くらい電源切っとけって。
大事な用があるんなら、こんなとこで麻雀なんてヤッてる場合じゃねーだろ。
せめて他の三人に申し訳なさそうにしろよ。
代走頼むなり、話をさっと切り上げるなり、なんか対応あるんじゃねえかぁ。
けっ、こっちは二連続ラス喰らってイラついてんだヨ、オオ。
ケイタイはマナー違反だ。
いずれ近い将来、対局マナー集に追加されるべき項目だ。
しかしルール違反ではない。ただのマナー違反だ。
ルール違反とマナー違反との違いは大きい。
ケイタイしながら、「ロン!」と言って牌をオープンした奴に、罰符 8000 点を支払わせることは不可能だ。
絶対に不可能かと言うとそうでもないけど、実際に支払った後で、冗談、冗談、ってな話で、その点棒は元にしまわれそうだ。
ケイタイが何故マナー違反なのか、そこのところは、竹書房の答えてバビィでも明らかにされていない。
広辞苑でもジャポニカ学習百科事典でも明らかにされていない。
赤尾の豆タンや天声人語でも明らかにされていないことは(今まで誰も言及しなかったが)明白な事実である。
アタキが今から前人未到の偉業を達成できるかどうかは、本人さえもわからないが、一応、考えてみる。
そもそも、お喋りしながら、というのがよくない。
ただでさえウルサイもんなんだ。
牌と牌がぶつかり合う音、河に捨てる音、鳴く時の発声。
ん?ん~、よく考えるとそんなにウルサイものでもないな。
それでも、お喋りしながら、というのはよくない。
そうそう、「ポン」の声がかき消されて、順番どうりに先自摸しちまうってことがありそうだ。
「リーチ」の声が聞こえずに、ドラを一発で振り込んでしまうことがないとは言えない(ある、ある、ある、ある)。
そんな場合は、話し声以上に大きな声で「ポン」「リーチ」って発声すればイイジャン。
ちっ、ちっ、ちっ、お嬢さん、それはチト違うぜ、マイハニー。
ウブなあんたには少しコクな話かもしれないけれど、今から俺らが言うことをよく聞いておくれヨ、マイスイートハート。
勝負に必要な言葉以外を普段使っていると、一番、多く出てくる言葉はどんな言葉だろう。
そいつは「明日も雨かなぁ」なんて天気予報の言葉じゃないし、「腹へったぁ」なんてーのとも違うのさ。
麻雀やってる奴らの口からよく出てくる言葉は二種類しかないのさ。
一つは「トン、失礼」や「チ*ポの輪切り」や「中ビーム」なんて意味不明のダジャレ、呪文、合いの手の類いと、もう一つは「あ、間違えた」だとか「裏目が入った~」だとか「オモテの方が良いよなぁ」なんていう、自分のミスを暗に匂わせるような思わせぶりの失敗ツブヤキの類いさ。
ダジャレみたいな奴に罪はないゼ。
たとえ「パンツ」だとか「犬のチンチン」だとか「パイパン」なんてー事を言っても、言ってる奴が品性を疑われるだけだ。
だけど問題は「しまった」なんて一言なのさ。
場合によっては「あっ」という一言だけでも罪深いモノなんだ。
何故、「あっ」という声が問題なのか、ウブなあんたには理解できないかもしれない。
だけど、マイラバ、知っておいても損はない、世の中にはココ一発ってー時に、こんな一言を使って、自分を有利にしようってぇ汚い奴らがたくさんいるってことを。
「トントン、かぶった~」なんて言いながら、その実、メンチンイッツーをテンパッてるような奴らが、本当にいるのさ。
そんな言葉に引っ掛かる方も引っ掛かる方だ。
そんな甘ちゃんはいつまでたっても負け組さ。
だけど、リトルダーリン(少し、しつこいな)そんな甘ちゃんも汚い奴らにいつも囲まれてれば、成長しちまうんだ。汚い甘ちゃんになっちまうんだ。
これは、かなり深刻な問題だぜ、ベイブ。
俺らは悲しくなっちまう。これは目薬じゃない、俺らの悲しみの涙さ。
くそっ、涙で対面の捨て牌がかすんでやがる。
汚い奴らから、この大事な半荘を守るためには、無用なお喋りをやめちまうことが一番の近道だってこと、無用なお喋りが汚い奴らを育む温床になっちまうってこと、賢いあんたなら納得してくれたよな、マイリトルラバスイートハートダーリンベイブ。
他人がケイタイする状況に人類がまだ慣れていない、という事実は見逃せない。
自分がケイタイするのは何ともないのだが、自分のごく近くで、他人が、この場所にはいない人間と話をしている状況に対して、ひどく不自然さを感じてしまうのはアタキだけではない筈だ。カーテンに向かって一人ブツブツ何かを喋っている人間も無気味だけど、目の前に(対面に)一応人間がいるにも関わらず、そいつにではなく、空間的にかなり遠くに位置している人間に対して話をしているわけだから、混乱の度合いはかなりのものだ。
自分が話かけられてると思って相づちを打つと、実は自分の後ろの奴にたいしてだったりした時のバツの悪さといったら相当なものだが、ケイタイの場合には後ろを振り向いても、その話し相手がいないんだから困る。
とにかく、異様なブキミさを感じてしまう。
新幹線の車内アナウンスに「携帯電話は他のお客様のご迷惑になりますから…」というのがあるが、あの「迷惑」は騒音の迷惑を言ってるのではない。
騒音という意味でならもっと騒がしい輩はたくさんいる。
アタキの車内での安眠を妨げるものは、赤ん坊の泣き声、車内アナウンス、車内販売の売り子、アタキのイビキなどだ。
ケイタイのブキミさが「迷惑」なのだ。
ケイタイの呼び出し音というのも問題にしたい。
何卓も立っているようなフリー雀荘で一つの携帯電話の呼び出し音が鳴ると、いっせいに何人もの人間が、牌をツモる手を止めて自分の電話に手を伸ばす。
ゲームの進行に支障をきたすのは勿論だ。
一番、困るのが、アタキのケイタイと同じメロディでの呼び出し音が鳴る場合だ。
おいおい、自分の電話だと思っちまったじゃねえか、そんな電話、電源切っといてくれよ。
せめてバイブレーション機能にしといておくれ、アタキは設定の方法知らないから。
ケイタイを持ち歩かない、あるいは、ケイタイの電源を切っておくというのが、21世紀に通用する良識なのは疑いようのない事実だ。これがベストだと本当に思う。
しかし、我々人類はこれまでの歴史の中でいくつもの失敗をくり返してきた。
常にベストを選択してきたわけではない。
だからここでもベストではなくベターなケイタイの使用というのを考えてみる。
前述したとおりバイブレーション機能にしておく、というのは必須だ。
次に電話がかかってきたら、相手に即座に、今、手が離せないので折り返し、という旨を伝える。
この時に「親から立直がかかってるから」だとか「コクシをテンパイしているから」だとかの理由は言ってはいけない。
こんな言葉も三味線に絡がる可能性があるのだ。
緊急ならば、即座に代走を頼もう。
代走がいなければ、他の三人に電話の間、待ってもらうようお願いするか、電話を続けても良いかお願いするしかない。
しかし、電話しながら局を進行するのは最終手段であることを認識しておくべきだ。
最後に小咄をひとつ。
その日はかなりツイていた。 今年一番のツキがアタキをおそったかのようだ。
朝も近付いて他の卓は全部ツブれてしまったのに、アタキのいるこの卓だけが、他の三人がアツくなっており簡単には終わりそうもない。
勝ってるアタキは早く切り上げたい。
別の雀荘でアルバイトしているTに、嘘の帰れコールを頼んだ。
アタキのケイタイが鳴る。 「ウン、だけど終わりそうもないんだ」ガチャン。
十五分程してまた鳴る。「わかったわかった、必ず帰るから」ガチャン。
更に十分程して「大丈夫、もうスグだから」ガチャン。
「すみません、もう朝ですし、そろそろ」アタキも申し訳なさそうに言う。
「次にかかってきたら帰んないと戦争になりますから」
ところがいつまで経っても最後のコールがない。 誰かが電源を切ってやがる。
しばらくしてTが、夜のお仕事を終えて、その雀荘にやって来た。
「電話、絡がんないんですが」
こんな奴がいるからネ、実際。
アタキ以外、ケイタイ反対。