麻雀打ちの頁/雀のお宿

小さな雀荘には不釣り合いなレートでのサンマの終焉。福岡県福岡市中央区六本松の記憶。

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取り残された街

六本松

 その店でサンマが立つことがあるのは知っていた。
 どんなルールなのか興味がなかったわけではないのだがこちらから言い出すのも何となく憚られて、というのも一度だけ目にしたサンマ卓の雰囲気がフリー卓にしてはあまりにアットホーム的で、私の嫌いな「ナアナア空気」が卓上を支配しているようなそんな感じがしたからだ。
 サンマをやりたい客が一人、ずっと待っている。
「百貫さんは何でもやるでしょ、どうです、一度」
 マネージャの高村のそんな言葉をきっかけにしてルールを聞いた。

 今の福岡はもしかすると日本でも最もアツい都市と言えるかもしれない。
 次々に立ち並ぶ建物、大手百貨店の参入、劇場の建設など、アジアに向けて玄関口としてのインフラ整備が順調に進んでいる。開発区域とはいっても元々が大型都市だったのだから何もないところが残されているわけでなく、既に何らかの都市機能を果たしている場所を更に新しくするだけのことだ。
 毎日、目に映る景色が変化してゆく。
 一週間前にあった筈の建物が思い出せない。
 そんな福岡にあって、この街は明らかに取り残されたところだ。
 交通の要所ではあるのだが(ある意味では、であるからこそ)昔からの飲み屋が占める大通りの裏の一角は、天神や中州のおしゃれな、あるいは高級な店とは縁遠いサラリーマンやOLの溜まり場の様相を呈している。
 ゲーセンの二階のそのクラブは、地方都市における地元客だけの雀荘特有のマナーの悪い客とそれを何とも思わない店側とで成り立っている。レートさえそこそこ高ければある程度のマナーの悪さも我慢できるのだが、普通のピンでこの状態ではあまり囲む気にはならない私が、それでも何度か出入りするようになったのは、自分が住んでる土地から車で数分の距離というただそれだけの理由からだった。
 この店は大事にしたいので目立たぬように、少なくとも特定の一人の客に恐れられるような勝ち方はすまいと決めていた。

 完先/二飜縛り/30000 持ちの 35000 返し/東南戦、千点三百円/一発や赤は五百円。
 ウマは浮き沈みのワンツースリー、役満は九千円もしくは三千円オール、北は抜きドラで役満時のみ手牌で使用可能。四人でやる場合には千点が二百円にデフレされる。
 四人卓はピンなのと比べてレートが釣り合っていない。こんな理由でなかなか立たないのだろう。もしかすると店側としては、あまり立てたくはないのかもしれないという気もした。

 最初の半荘にドボンして、四人卓での勝ち分をすべて吐き出した。ほんの十数分程度の出来事だった。
 次の半荘では、無意識に一萬を抜いてしまい、チョンボを取られた。他の二人に 6000 点ずつの罰符だ。
 以降は順調に手が入り出し、最終的にはかなりの勝ちになったが、明らかに一人勝ち状態なので抜けるタイミングを逸してしまった。他の客が来て自分が抜けても潰れることはないので後は勝ちが半分に減るまで流した。
 打ちながら考えたことは、どうして皆こんなにスローモーなのだろうということだ。
 この人達は、麻雀の本当の面白さを知らない。そんなに毎回考えながら打ってたらいつも強い奴が勝ってしまう。麻雀はテンポよく打って、そんなに上手でない人間でも勝てるから楽しいのだ。絵合わせこそ麻雀の醍醐味なのに、それもせっかくのサンマなのに、そんなに考えるのなら将棋でもやる方が楽しいだろうに。

 役の飜数が通常とはいくらか違う。
 七対子が一飜/全帯么が門前三飜の副露二飜/純全帯么が門前四飜の副露三飜。
 七対子が一飜なので立直しないと和了れない。「自摸、七対子」は完先なので縛りの二飜を満たさないのだ。七対子好きの私でも立直が必要となると考えてしまう。立直をすると手を回せない。常に最終の待ちを想定して七対子に仕上げなければならないわけで、これでは聴牌に時間がかかる。
 それでも使用牌が少ないのだから、平和よりも効率は良いのだが、もっとオイシイ役を発見した。それは一盃口だ。
 対子ができやすいのは勿論なのだが、一盃口のオイシイ点は最終形を両面や変則に取れることだ。私だけでなく全員、異常に一盃口の完成率が高かった。門前での和了りの三割に絡んでいた。
 こんなに一盃口が頻出するのを見たのは初めての経験だった。

 九州では常識の「東西、南北廻し(北は無いが)」なので、ダブ東だけでなく、ダブ西はかなり有効だ。だが副露することの方が多いので、あまり高い点数に仕上がることはない。

 面白かったのは「数え役満」の存在だった。
 このクラブでは数え役満でも役満賞を貰えるので、門前でかなり大きな手で聴牌すれば、立直して裏ドラを期待する。ドラと槓ドラをポンしているような時なら、さらに槓をしてドラを増やし役満への可能性を追求する。
 役満とはいっても点数的にはたかだか四倍萬なのでたいしたことはないのだが要は祝儀がオイシイわけで、狙うだけの価値は充分にある。

 一度、明らかに失敗した手順があった。

一索一索一索一索七索八索九索一筒二筒赤三筒七筒九筒九筒南

 こともあろうに、この手から生牌の南を捨ててしまったことがある。明らかなミスだ。
 この手に八筒九筒を持ってきても立直を架けることはデキナイので、正着は七筒落としか、一索の暗槓の筈だし、私の勝ち味ならば一索暗槓の一手だったろうと思われる。

 それまであまり立たなかったサンマ卓が、私が行くようになって週に三回程立つようになった。
 さすがに負けが込み過ぎた人間が出てきたのだろう。急にパッタリと誰も来なくなった次の週にサンマのレートも百円に統一された。これなら四人打のピンの五割り増しくらいの感覚だ。
 やっと健全な環境になってとても嬉しい。今では誰もが気軽にサンマ卓に参加できるような、そんな明るいクラブに生まれ変わった。