麻雀打ちの頁/雀のお宿

健康と不健康とが同居するハコの中での麻雀。福岡県福岡市中央区渡辺通の記憶。

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不健康な麻雀との共存

渡辺通

「連勝ですね、何か飲み物は?」
 胸の名札にマネージャーという肩書きの男が、私の本名に続けて聞いた。
 もうそろそろ帰りたい私は、ラス半を告げて場代を支払った。次はトップを取ることよりも、早く半荘を終わらせるつもりで出親のサイコロを振った。明日は月曜日なので、今日じゅうにもう一軒は別のクラブに顔を出したいのだ。

 こうして麻雀専門のホームページを立ち上げている楽しみの一つは多くの知らない人々から感想メールが届くことなのだが、暑い夏からこっちまともな更新をしていないと極端にメールの数も減ってしまった。以前は二日に一度は感想への返事を書いていたのが、当然のように週に一回、全員にまとめて、というようになったある日、彼女からの感想が届いた。
「ようやく、福岡の人を見つけました。雀荘で働いてます」
 今まで雀のお宿に感想をくれた中でメンバー職に就いてる女性というと、全国的に知られた女性だけの麻雀サークルに所属しているか、プロ団体に所属している方々からだけだったのだが、地元で、というのは少し驚いた。
 というのも、私は地元で、女性のメンバーがいるクラブに出くわしたことがないからだが、考えてみると福岡にだって女性のサークルができてもいい頃だ。
 数日して、『雀のお宿』のリンク元に見覚えのないURLが追加してあるのを見つけ、それを辿ると「健康麻将云々」というタイトルのホームページで、作り始めて間もないと思しきページを発見した。感想をくれた彼女、Uさんのページだ。
雀のお宿を「福岡のメンバーさんのページ」と紹介してあった。

 二度目のメールには、クラブの住所と名前が書いてあった。
 いつか新聞広告で目にしたことのある名前。低レートで安心の、といったイメージがあるので、何となく入りづらい雰囲気がある。というのも私の外目の印象はコワモテで、学生客中心のクラブでは浮いてしまう存在なのは自分でもわかっているからだ。
 そのクラブに足を運んだのは、最初のメールをもらって十日程経ったある平日の夕方だった。

 ビジネス街なのでスグに見つかるだろうとタカをくくっていたら、かなり手間取った。
 大きなビルとビルの間には多くの飲食店や小さなオフィスビルが並んでいる。お宿に何度か来て一緒に囲んだことのあるMが働いている筈のビルを偶然、見つけた。Mとは彼が学生の頃にノーレートの大会で打ったことがあり、お宿に全自動卓を入れてからもサンマで闘ったこともある。こんなに近くならMの連絡先を聞いておけばよかった、と思った。
 そんなに大きくはない角ビルの二階のガラス窓に
「飲まない、吸わない、賭けない」
 という文字を見つけた。ヘビィスモーカーで博打ばかりやってる私なので一瞬ひるんだのも事実。
 階段を上がって鉄の扉を押したら、カウンタの iMac の前に座っていた男と目が合った。麻雀クラブでマックを目にしたのも初めてだ。

 Uさんの本名を忘れてしまっていたのだが、何とか話は通じた。彼女は既に帰った後だったが、健康麻将の話やら何やらで二十分くらいはいただろうか。
 奥ではフリー卓が立っているらしかったが、私の目的はUさんに会うことだったので
「また、土曜日にでも」
 ということで、別のクラブに出かけた。
 麻雀を打つためでなく、会ったことのない人と会うためだけに雀荘に行き、会えずに店を出る。自分は何をやってるんだろう。

「やっと、会えましたね」
 さらに一月近く経った後、交わした最初の挨拶。
 レッスンプロを目指している彼女の麻雀への関わり方やいろんな知識以上に、その屈託のない明るさと私への気遣いに気分よくなったので、せっかくだから、とフリー卓で打つことにした。

 健康麻将専用のスペースと続き部屋で、低レートのフリー卓も立っているのだ。
 こっちでは禁煙だが、あっちではOK。同じ人々が行き来しているのだがそんな仕切りも面白い。
 アリアリで符計算しない健康麻将ルールをベースにしているが、門風のふき方とウマの付け方についてのみ御当地ルールを加味したルール。ウマは、二人浮きならゴットー/一人浮きならシチゴサン。それをさらに百円単位でやり取りするので半荘終了時には、専用の計算表を元に精算する。
 祝儀とウマとで、私の戦略(戦術ではない)は決定されるのだが、このウマでの戦い方、あるいは仕事のやり方みたいなものは、誰も気にしてない様子だった。
 初めての日なので負けるわけにはいかない。七八半荘で、一緒に囲んだ五人全員にそれなりの印象を持ってもらったところでラス半コールをかけた。

 席を立って、帰ろうとした途端に店に入って来たOと目が合った。二年ぶりだろうか。
 ある問題をかかえた奴だが、このクラブで遊んでいるということは、たぶん真面目な生活をしているのだろう。
 こうして初めて訪れたクラブでも懐かしい出逢いはある。

 実は自分には求めていたものがあったことに気付いたのは、次のクラブへの移動途中だ。
 今から少しだけ大きなレートでサンマを始める自分は、Uさんがいるクラブではできることならもっと純粋に麻雀を楽しみたかった。
 はっきり言えば、ノーレートの麻雀を渇望している自分がいた。
 負けても金銭のやり取りで済むのではなく、大事な何かを賭しての闘い。勝った負けた以外の、もっと深い所で、心臓がキリキリ痛むような麻雀。囲む面子の麻雀の技量が問題になるのかもしれないけれど、それだけじゃない筈。少なくとも以前によくやってたノーレートの大会では、一打一打をもっと大事にしていた。

 喫煙を我慢できるような体質になって「健康麻将」の日に顔を出そう、そう決心した。