麻雀打ちの頁/雀のお宿

ある雀荘の代表として大会に参加したその結果など。

公開

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代表の名に恥じて

下関

「麻雀を打つために下関まで行くんですか」
 土曜日の夜中に囲んでいた卓で聞かれたが、別にそれほどたいしたことでもないだろうと思った。
 新幹線を使えば一時間もかからない距離だし、それに明日(日付的にはすでに今日の事だが)は大会だ。毎日毎晩、ただ囲むだけの日常にあって、イベントは大事にしたいもの。
 朝早くに約束しているので、この店での戦いにもそろそろケリを付けなければいけない時刻だ。

 たまにしか顔を出さなくなった大型チェーン店での三週間程前の話。
 店長からウチの代表選手としてその大会に出てくれないかと相談された。
 私に否の答えはなく、どんな大会であれ「代表として」みたいな言葉は嬉しいものだし、その店長とは麻雀以外のつきあいもある仲なので無下に断わることもできない。
「Mさん(私のこと)以外にもOさんにも声をかけて万全の布陣で望みますので」
 Oは、このページの[出逢]にも登場している打ち手で、勝ち組の人間だ。
「商品や賞金、いっぱい持って返ってきましょうよ」
 半荘三回か四回の戦いではどんな結果になるか予想はできないが、個人的には久しぶりの大会で、それも今回のは全国規模のそれでもあるし、ちゃんと戦おうと思った。

 なんて誓いもとうに忘れて、私はその当日、朝方まで別のクラブで囲んでしまい、サウナで二時間程仮眠をとったら、店長との約束時刻である十時になった。
 大会は午後一時からだが、他県での話なのだ。一旦この店に集合して、それからタクシーや新幹線を乗り継いで会場に行くらしい。
 日曜の朝だというのに集合場所のクラブにはフリー卓が四卓も立っており、当然ほとんどの客は昨晩からの延長だ。
「Mさん、お久しぶり」
 何人かの常連から声をかけられる。
 ハンドルの百貫でなく本名で通っていたこのクラブでは、私は以前スターだった。
 サラリーマンもヤッちゃんも女性斡旋業の奴も「よろずトラブル解決業」の兄さんも、皆、眠そうな顔を押して私に声をかけてくれる。ありがたいことだ。
 私が私である本当の空間がココには確かにある。
 他所ではあまり見せないにこやかな自分がここにいるのに気付く。
 なかなか忙しくて、ここまで来ることがないもので、…。
 私の嘘は白々しいものだけど、誰もつっこんではこない。どんなに親しくても卓を囲むことが前提の仲にすぎない。

 店長とO以外に、店の従業員が一人、私の知らない客が二人の総勢六人。
 客の二人は私よりもずっと若い。三十歳よりも少し手前なのか。
 一人の若者はアイビー系で、一人はサーファー系。どちらも私とは初対面だが、挨拶なんかない。こちらも眠いので、余計な気は使わない。
 タクシーで一番大きな駅まで行き、そこからチケットを渡されたが、私は皆の後を追うだけ。列車の中では眠っていた。

 会場のクラブのあるビルの一階の食堂に入る。
 懐かしい顔。
 以前、あるクラブでメンバーをしていた奴で、二年ぶりくらいか。そのFとは奇妙にウマが合う仲で、メンバーを辞めて、高級クラブのボーイになってからも時々顔を合わせていた。
 私がもし麻雀クラブを経営するような事態になったら、一番に声をかけるだろう筈の奴だ。
 途切れていたものがこうしてまた繋がる。
 Fの住所と連絡先を聞いて別れようとしたら
「ぼくも、今日の大会に出るんですよぉ」
 笑った。

 大会は50分時間制限の半荘三回を戦い、上位四人が決勝卓に残る、というシステム。
 10卓なので、トップを二回取れば決勝卓進出ボーダーか。
 始まった途端に親マン放縦。東一局だったので、気を取り直して、東場でなんとか回収し、さぁもう一息というところで南一局に親マン放縦。
 ミスもあったが、ここでプッツンしては、高い交通費を出してくれた店長にすまない。がんばって二着、死守。
 だが二回目の半荘も、ほぼ全局参加の慌ただしい内容で痛恨の三着。
 三回目の半荘は、一緒に来たもう一人の従業員と、Fと同卓になった。
 もう一人の従業員は、一二回目とも大きなトップで、ラスを引いても決勝卓に残りそうな点数。
 Fに差し馬を申し込んだが断わられた。
 何の意味もない半荘ではあるが南場の九巡目に国士無双テンパイ。二枚切れの一萬は山にいるか、二枚とも同じ人間が抱いているかだ。
 困ったのでリーチしたら、くだんの従業員が
「ありがとうございます」
 と言いたげに私に頭を下げた。
 二枚とも奴の手の中らしい。

 大会はまだ決勝卓が続いていたが、出番のない私は帰り支度を始めた。
 店長が、せっかく来たんだから、リーチで遊んでいきましょう。
 頼まれたら仕方ない。
 四半荘だけの約束で残ったが、他の客がいないので、一緒に来た若者二人と囲むことになった。
「セットでやろうか」
 私の冗談は却下された。
 四半荘で二回のトップというのはどうということもないが、勝ち方が自分らしくて満足。
 若者二人は当分の間、私を忘れないだろうと思うと心地よかった。

「本当に、ぜったいに連絡くださいよぉ」
 Fはそう言って、一足先に帰った。
 帰り支度をしてから後のことはほとんど覚えていない。どの列車でも熟睡していたせいだ。

 店長と別れる駅に着いて起こされた。
「Mさんとまた麻雀したいって、○○さんが言ってました」
 若者の一人が店長に言ったらしいが、ヘンな奴なのか。それとも若いというだけのことか。私なら、私みたいなのとはあまり一緒に囲みたくはない。
 また、近い内に顔を出すよ。
 店長がいる店の古くからの常連の多くに囲まれている自分は、一番大切な自分なのだ。