店に着く。
鍵を開ける。
薄暗い部屋。湿った空気。
カーテンを開き、窓を開ける。換気扇を廻す。
有線放送のスイッチを入れる。
奥のゴミ箱からゴミを集め、袋に入れる。
誰かが空き缶を一緒にしている。それを別にしてゴミ袋を外に出す。
使用済みのおしぼりのバケツを裏のドアの方の勝手口に出す。
新しいおしぼりを専用ポットと冷蔵庫にそれぞれ入れる。
店内を軽く掃除。
奥のセット卓の方で、鉛筆が落ちてた。
洗面所に入って用をたす。洗浄液を撒いておく。
トイレットペーパー、OK。使い捨て歯ブラシ、OK。芳香剤、少なめ。
待ち席の雑誌を並べる。昨日の新聞をたたんで片付ける。
椅子とサイドテーブルの吹上げ。一緒に灰皿をチェック。一仕事。
今朝まで使っていた卓の牌を磨く。
座るのはカウンタを背にした席。定位置。
一旦、牌を流し込む。
セットされて上がってきた牌山を引き寄せる。
自山、下家、上家、対面の順。
下家と上家の山を引き寄せる時にはシフトさせて、対面の山は少し浮かせてサッと持ってくる。
湿ったおしぼりと乾いたタオルの二枚を使う。
裏側を拭いたら向こう側から順に牌を立てていく。
ゲタは使わないので、立てた牌を手前に全部寄せるのに気を使う。
立てた牌の上部、横に寝せて上部、もう一度立てて反対側、寝せて四番目の側面。
横になった牌を立てる時の手の動きが気持ちイイ。
右手の人さし指と中指、左手の親指、それぞれの指の腹の部分だけの感触でサササッと立てる。
最後にもう一度立てて向こう側に倒す。
表面は少し力を強めに入れて拭く。
一セット完了。
牌を流し込み、もう一セット分を同じように拭く。
二セット目が終わったらゲタにすくう。
流し込みの準備ボタンを押す。中央部が持ち上がったら卓盤を開ける。
ドラムの表面を拭く。
ベルトを空回りさせながら古いタオルをあてがう。
強くあてすぎると摩擦で熱くなってくるので注意。
盤を下ろしてセットされたばかりの牌をもう一度流し込む。
ゲタに取っておいた方の牌を手前に置く。
東南西北と赤ドラと白ポッチだけを表向ける。
点棒を確認。
常連の一人が顔を出す。
パチンコしてるから誰か来たら声かけて。
声をかけなくてもスグに戻ってくるのはいつものこと。
電話がかかる。マスターから。
トイレの芳香剤とカップ麺が少ないみたいです。
両替え分もありません。
報告はこれだけ。
卓が立つまでしばらくは時間がありそう。
一番大きなグラスにコーラを入れ、レモンの輪切りを添える。
アイスクリームが残ってるので自分のためにコーラフロート。
買ってきた雑誌の頁をめくる。面白くない。
昨日のトップ者の名前に目を通す。
もう一度、雑誌を開く。
おしぼりポットのスイッチを入れる。
いらっしゃいませ。スグに立てます。
三人分のおしぼりセットとコースターを用意。
たばこ、大丈夫ですかぁ。
よろしくお願いしまーす。
スグにもう一人の客が入って来た。
ナイスタイミング、ただ今、始まり、南家スタート、ドラは三索です。
ウーロン茶、アメブラ、アリアリ、あつ茶、四人分用意。
売り上げ表に開始時刻を記入。
長い一日が始まった。
いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。
今日の巨人の先発は誰。
昨日の**ちゃんの国士は早かったねー。
いらっしゃいませ、お早うございまーす。
奥へどうぞ。いつものようにお食事取りますか。
貴重品はお預かりします。
すみません、マイルドセレクト切らしてるんですよ。
いらっしゃいませ。
こっちも立てましょうか、いいですか。
マスターが出勤。
おれが入るからイイよ。
はいもしもし、こちら東南荘です、毎度ありがとうございます。
両手で大きくバツ印を作っている常連。
いえ、本日はお見えになっていませんが。居留守。
アツシボ、ポン。
パンと袋を破って渡す。
空のコップを引く。
はい、それはカンチャンに取れますから、1300/2600ですね。
いらっしゃいませ。
マスターがもう飛びそうですから、スグに入れますよ。
聞こえてるぞ。
笑い声。
マスターの後に座るとツカないんだよね。
いらっしゃいませ、四人様ですか、こちらへどうぞ。
ちょっと一息。
流しで煙草に火をつける。
一番近くの客の手をじっと見つめる。
下手なのだけど、見てても飽きない。
こうしてどれくらいの客の手を覗いてきただろう。
少ししかたまってない洗い物を片付ける。
また、じっと客の手を見つめる。
ピ~ンチィ、トイレ代走。
あ、自分でやってりゃチャンタ狙いの手だけど無視。
安全牌を残してタンヤオ気味に進める。
はい、親からリーチがかかってます。
いっちゃってよ、そのまま。
そんな風に言われても自分では絶対にいかない。
勝負なら戻ってください。
注文した出前が届く。
そのまま、奥の卓へお願い。
新しいおしぼりとウーロン茶を用意。
料金を支払い、セット伝票へ記入。
ラストーッ。
卓へ寄って、牌を流し込む。
精算は済みましたか。点棒を揃えるのを手伝う。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
いらっしゃいませ、お久しぶりです。
ありがとうございました。
いらっしゃいませ。
胃薬、持って来て。
胃薬以外にも頭痛薬と下痢止め、軟膏が常備してある。
ラク牌。
ツメシボ。
タバコ。
ピンチ。
マンリョー。
ゴバラー。
マスターは夜の街に繰り出した。
いってらっしゃい。
たぶん、今晩はもう戻ってこない。
お寿司のご注文、ごついでありませんか。
ラストオーダーです。
十時四十分。
表の看板の電気を消す。
カーテンを閉める。
トイレの小窓にも木枠をはめて外に灯りが漏れないように。
朝まで、あと八時間。
あっちの卓で本走に入れるとラッキーかな。
あのオヤジ、今度もトップだと三連勝だ。
対面、マンリョウが続いてる。
電話がかかってくる。
取らずにいると一旦切れて、またかかってくる。
ツーコールで受話器を上げる。
ええ、大丈夫ですよ、二卓立ってますから。
おーい、こっち、チェックお願いー。
奥のセット卓が終了した。
伝票に合計を記入して、おしぼりと一緒に渡す。
このグループは、いつもここからが長い。
いつも仲間内の精算に手間取っている。
ありがとうございました。
カーテンをきちんと閉めて、後片付け。
灰皿、サイドテーブル、椅子。
牌を磨こうとしたら、さっきの電話の客が入ってくる。
たぶん、勝っている筈の客が声をかける。
ラス半だから、スグにできるよ。
でも、半荘は始まったばかり。
マスターはどうしたの。
別に何の用事があるわけでもないことは明らか。
ええ、ちょっと。
観戦し始めたので、奥の卓に戻って、整頓の続き。
何も考えない。手だけが勝手に動いていく。
もう一卓あったセットも終了し、フリーが一卓だけになった。
カップラーメンを鍋にあけて、卵を二個と味付け海苔を二袋。自分のためのスペシャル。
ソファーに座って新聞を広げて腹ごしらえ。
旨そうなニオイやね。
ちっ、注文。麺がのびちまう。
他はよろしいですか。
別の客がコーヒーと煙草。
イイ感じ。たぶん、以降はゆっくりデキル筈。
半荘が終了する度に灰皿と飲み物の確認。
この四人は朝まで続きそうだ。
ソファーで少し、うとうとするが、声がかかればスグに応える。
眠っているのか起きているのか自分でもよくわからない。
本走の出番が無いのは少しだけ寂しい。
だけど今日は疲れてるので、ほっとしたい気分でもある。
夜明けは近い。