「あれっ、もっちゃん、この時間からなんて珍しいね」
「もっちゃん、今日は、代休なんですって」
「サラリーマンはぁ、気楽なぁ、稼業~とぉ、てか」
「何、言ってんのさ、朝からボートにパチンコ。
そしてこうして麻雀やってるマスターに言われたかないよ」
「私の雀荘通いは、営業活動ってやつだんねん」
「ママが昨日、怒ってた」
「コーヒー、え~っと、缶でいいや」
「客の半分は、麻雀で釣ってきたって」
「そう、小さな居酒屋ったって、攻めの経済ね」
「それを言うなら、攻めの経営」
「ママがね、店の買い置きの煙草、何箱も無くなるのが、って」
「ははは、何箱もじゃなくって、何カートンもって」
「いらっしゃいませ」
「タノモオーッ」
「おしぼり、熱いのでいいですか」
「パチンコの換金やってるタバコ屋の婆さんに売り付けるんだって」
「売り付けるなんて人聞きが悪い。
婆さんが売って下さい、って言うんだから」
「で、マスターが買って下さい、ってわけ」
「ほんとのところは、買わなきゃ殺すぞ、って」
「需要と供給のバランス」
「じゃなくって、需要と強要」
「はい、白をとった方、お好きな席へどうぞ」
「フジイ君は、毎晩、美咲さんの手料理、食べてるんだって」
「そりゃ、マスターより多いんじゃないの」
「そ、毎日だからメニューに飽きちゃって」
「客に飽きられるメニューを作ったのは、オイでごわす」
「場代、お願いしまーす」
「メニューはあってなきがごとく、それは幻のようでごわす」
「もーさん、今日は早いっすね」
「うん、先週の日曜、出、だったから」
「ぼくだけじゃないんですよ、色々、注文するの」
「美咲さんの料理の腕は、やっぱ血筋」
「どうかなぁ」
「あぁ、福喜楼と河千の」
「それで、帰ってきた兄さんが、パスタ、始めるって」
「あれっ、灰皿、びちょびちょー」
「中華と和食とイタリアン」
「でも得意なのは、サバの煮付けとスピードカレー」
「すみません」
「リーチでごじゃる」
「そうでごじゃるか」
「困ったでごじゃる。
え~い、追っかけでごじゃる~」
「勝負でごじゃる」
「カンでごじゃる」
「煙草、ポンでごじゃる」
「ライト、でしたね」
「スピードカレーはメニューに入れてもいいんじゃないって」
「何がスピードなの」
「早いリーチは、チートイツ。
わかっちゃいるけど、止められない」
「ツモ。
ほいっ」
「あぁ、ナナ、トーサン」
「はい、ごくろうさん」
「はい、おつかれさん」
「フライパンで作ってしまうもんね」
「注文、受けて、出すまで二分」
「休みは、ならせば、あれっすか。
週休二日くらい」
「おいおい」
「うん、ちゃんと取らなきゃ、って規則」
「フジイ君だって、稼いでるんじゃないの」
「はい、麻雀では、なんちて」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいまほー、スグに入れます」
「マスターのとこの客ばっかじゃない」
「あ、ぼくも今、そう思った」
「東の二局、親番一回、23700点持ち」
「ち、違いますよ。
親番二回、持ち点は24300点です」
「おう、トイレ代走」
「土曜は休もうかなって、ママが」
「カン」
「で、そんなとこカンして~」
「ドラはどうやって使うの、それじゃぁ」
「いや、でもね、お客さん来なくてもね。
ある程度の時間までは、開けとけって」
「やっぱあれですか、土曜はお客さん、少ない」
「ポン、やったね」
「和了ってなんぼよ」
「週休二日が定着しちゃったんだよなぁ」
「下家が、ドラをポンしてます」
「どうも」
「久しぶり」
「十五時間ぶりくらい」
「月曜や火曜よりも少ないんだよ、土曜は」
「リーチでおま」
「ぼくなんかは、まだまだってな感じですけど」
「一発は敬意を払って」
「え~っと、始まったばっかりだよね」
「サラリーマンはぁ、てか」
「ええ、東の二局」
「だからぁ、気楽じゃないですって」
「勝負師」
「ツモォ」
「あっちゃぁ」
「うぉっちゃぁ」
ここには、大切にしたい何かがある。
平成のフリー麻雀荘には、大切にしたい何かがたくさん残っている。