麻雀打ちの頁/雀のお宿

平成の麻雀荘に存在する、ある市井の人々のコミュニケーションの断面。忘れられそうな古き良き日本の風景の一つが麻雀荘には残っている…。

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浮世雀荘

浮世雀荘

こんな場所がまだ残っている

フリー雀荘には、大切にしたい何かがある。
それはもしかすると、多くの人から非難を受けて当然のような、あるいはあまり誉められたようなことではないのかもしれないけれども、大事にしたいと考えているのはアタキだけとは思えない。

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「あれっ、もっちゃん、この時間からなんて珍しいね」
「もっちゃん、今日は、代休なんですって」
「サラリーマンはぁ、気楽なぁ、稼業~とぉ、てか」
「何、言ってんのさ、朝からボートにパチンコ。
 そしてこうして麻雀やってるマスターに言われたかないよ」
「私の雀荘通いは、営業活動ってやつだんねん」
「ママが昨日、怒ってた」
「コーヒー、え~っと、缶でいいや」
「客の半分は、麻雀で釣ってきたって」
「そう、小さな居酒屋ったって、攻めの経済ね」
「それを言うなら、攻めの経営」
「ママがね、店の買い置きの煙草、何箱も無くなるのが、って」
「ははは、何箱もじゃなくって、何カートンもって」
「いらっしゃいませ」
「タノモオーッ」
「おしぼり、熱いのでいいですか」
「パチンコの換金やってるタバコ屋の婆さんに売り付けるんだって」
「売り付けるなんて人聞きが悪い。
 婆さんが売って下さい、って言うんだから」
「で、マスターが買って下さい、ってわけ」
「ほんとのところは、買わなきゃ殺すぞ、って」
「需要と供給のバランス」
「じゃなくって、需要と強要」
「はい、白をとった方、お好きな席へどうぞ」
「フジイ君は、毎晩、美咲さんの手料理、食べてるんだって」
「そりゃ、マスターより多いんじゃないの」
「そ、毎日だからメニューに飽きちゃって」
「客に飽きられるメニューを作ったのは、オイでごわす」
「場代、お願いしまーす」
「メニューはあってなきがごとく、それは幻のようでごわす」
「もーさん、今日は早いっすね」
「うん、先週の日曜、出、だったから」
「ぼくだけじゃないんですよ、色々、注文するの」
「美咲さんの料理の腕は、やっぱ血筋」
「どうかなぁ」
「あぁ、福喜楼と河千の」
「それで、帰ってきた兄さんが、パスタ、始めるって」
「あれっ、灰皿、びちょびちょー」
「中華と和食とイタリアン」
「でも得意なのは、サバの煮付けとスピードカレー」
「すみません」
「リーチでごじゃる」
「そうでごじゃるか」
「困ったでごじゃる。
 え~い、追っかけでごじゃる~」
「勝負でごじゃる」
「カンでごじゃる」
「煙草、ポンでごじゃる」
「ライト、でしたね」
「スピードカレーはメニューに入れてもいいんじゃないって」
「何がスピードなの」
「早いリーチは、チートイツ。
 わかっちゃいるけど、止められない」
「ツモ。
 ほいっ」
「あぁ、ナナ、トーサン」
「はい、ごくろうさん」
「はい、おつかれさん」
「フライパンで作ってしまうもんね」
「注文、受けて、出すまで二分」
「休みは、ならせば、あれっすか。
 週休二日くらい」
「おいおい」
「うん、ちゃんと取らなきゃ、って規則」
「フジイ君だって、稼いでるんじゃないの」
「はい、麻雀では、なんちて」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいまほー、スグに入れます」
「マスターのとこの客ばっかじゃない」
「あ、ぼくも今、そう思った」
「東の二局、親番一回、23700点持ち」
「ち、違いますよ。
 親番二回、持ち点は24300点です」
「おう、トイレ代走」
「土曜は休もうかなって、ママが」
「カン」
「で、そんなとこカンして~」
「ドラはどうやって使うの、それじゃぁ」
「いや、でもね、お客さん来なくてもね。
 ある程度の時間までは、開けとけって」
「やっぱあれですか、土曜はお客さん、少ない」
「ポン、やったね」
「和了ってなんぼよ」
「週休二日が定着しちゃったんだよなぁ」
「下家が、ドラをポンしてます」
「どうも」
「久しぶり」
「十五時間ぶりくらい」
「月曜や火曜よりも少ないんだよ、土曜は」
「リーチでおま」
「ぼくなんかは、まだまだってな感じですけど」
「一発は敬意を払って」
「え~っと、始まったばっかりだよね」
「サラリーマンはぁ、てか」
「ええ、東の二局」
「だからぁ、気楽じゃないですって」
「勝負師」
「ツモォ」
「あっちゃぁ」
「うぉっちゃぁ」

ここには、大切にしたい何かがある。
平成のフリー麻雀荘には、大切にしたい何かがたくさん残っている。

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